絶望から生まれた架空ことわざ①「カエルの舌で星を拾う」
「カエルの舌で星を拾う」
意味: 物事を手に入れるためには、多少なりとも非現実的で効果のわからない手段や努力も、時には必要であることを示す。
ある貧しい村があった。
あまりに貧しいため、「極貧村」と呼ばれていた。
まずもって、土地が貧しい。
作物の類は、土に触れさせた途端に腐り始め、悪臭を放つのだ。
希望を持って種を埋めようものなら、悪魔の目が発芽して絶望という絶望を見せてくれる。
太陽光は充分に差し込まぬ。
1年のほとんどを厳しく寒い冬が占めていて、人々はぶるぶる震えっぱなしである。
原油が採掘されることもなく、金もないこの村では、寒さをしのぐ手段と言えば、動物の死骸からひっぺがした毛皮の山の中に埋もれることしかできない。
そこで生まれた子どもたちは、絶望といっしょに母親の股ぐらから生まれ落ちる。
子は、ハイハイをしながら絶望の土地を肉体の前部をもって舐め尽くす。
直感的に気づいてしまい、大泣きをする。
この土地は、絶望の土地なのだ、と。
ある時、遠く離れた町で巨大な竜巻が発生し、あらゆるものが巻き上げられ、暴力的な移動を遂げる。
その中には、体の軽い虫や小動物やけばけばしい看板やフルーツや木などが含まれていた。
しかし、絶望と極貧の村にひとたび着地すれば、彼らの冒険もそこで終了である。
虫たちは凍りつき、看板は破壊され、フルーツは砕け散る。
そこで、ハイハイしていた赤子の目の前に、巨大なカエルが落下してきて、ぴとりと地に張りつく。
見ていると、丸裸のカエルは寒さに固まりながらも、懸命に目だけは動かすのである。
長旅で随分と腹が減っているらしいし、何より、食事が体を温める。
カエルは頭上に見えた、発光するいかにも温かそうなものに向かって本能的に舌を伸ばす。
しかし何度やっても届かない。
発光するものとは、頭上に広がる星々だったのだ。
この貧しい村は、太陽光が入りにくいため、星を見ることに関しては、最高の村だったのだ。
子は、その時になって初めて村に希望を見出す。
星の美しさを、生まれて初めて見出す。
子はぺたりと地に体をつけながら、弱々しく、腕を高くあげようと奮闘する。
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