ムダ毛処理に関する根本的な考え方の変化
「お客様、この四半期での効率化を示したデータです」
ムダをなくし効率化を図る。この時代の流れは、体毛にまで及んでいた。僕は体毛効率化の専門家が示す、この四半期に剃り落としたムダ毛の数値を眺めていた。
「体毛の基本は重要な部位の防衛です。お客様は比較的、脇へのリスクが低いため、脇毛をムダ毛認定し、処理させていただきました」
「うむ。心なしか腕が動きやすくなった気がしていたんだ」
ムダ毛処理はすべて眠っている間に行われる仕様になっている。税金関係を税理士に任せてしまうように、ムダ毛処理に関しても専門家にプロの手さばきで処理してもらうのがやはり良いのだ。
体毛効率化の専門家は次のデータを見せながら「また、肛門周りの毛に関しても、お客様の日常生活において、肛門周りを攻撃されるリスクが極めて低いとデータに出ましたので、秘密裏に処理させていただきました」と言って、秘密めいた微笑を見せた。
「そうだな。ウォシュレットの強弱設定にも慣れてきたところだし、尻を狙う刺客もこの頃減ったと思っていた。これは適切な判断だと思うぞ」
僕は満足していた。
「次の四半期は、頭髪を効率化するのはいかがかと思うのですが……」
頭髪……?
「おい!」と僕は言った。「俺の頭は守る価値もないほど、何も考えていないということか」
「お客様、おっしゃる通りでございます」
「なんだって!」僕は驚いた。
「頭を使い考えすぎるがあまり、リスクを恐れすぎている傾向がありますゆえ、折角のチャンスを多く見逃してしまっているのです」
「ふむ」と僕は言った。
「時には本能に従い、アグレッシブに、ここぞという時に考えすぎずに飛び込んでみることが、ビジネスを成功させる秘訣になるのです」
「ふん。それで」と僕は言った。「寺の和尚たちは皆アグレッシブなのかね?」
「おっしゃる通りで」と体毛効率化の専門家は深く頷いた。
「彼らは欲望や煩悩を断ち切るため、余計なことを考えないように頭髪を剃り落とすのです。その結果、実にアグレッシブにお経を唱え、アグレッシブに木魚を叩き、アグレッシブに庭掃除をします。彼らのうちに、守られるべき部分は頭ではありません。もはや信心のみで動いているのです。頭を叩き割っても、坐禅を組み続けるでしょう」
僕は決心した。
「よし、やろう!」
翌月、眠っている間に頭髪を剃り落とされると、翌朝嬉々としてシャンプーとコンディショナーを捨てた。
整髪料とヘアゴムとヘアピンとシュシュとリボン、ジェル、散髪セット、ヘアアイロン各種、ドライヤーなどをまとめてゴミステーションにぶち込んだ。
僕はアグレッシブに挑戦してやるのだ、と意気込んでいた。
と、その時だった。
ゴミ出しの際にすれ違った見知らぬ男に、スネを2、3発殴られてしまう。
かと思えば吹き矢が飛んできてふくらはぎに命中し、続いて犬に小便をかけられてしまう。
しかし、脚の毛は雑木林のごとくもさもさに生えていたから、脚自体はてんで無傷だった。
ムダ毛を処理して効率的な生活を手に入れたいのだが、どうも脚に関してだけは今だにリスクが高いらしく、ムダ毛認定されずにまだ処理できていない。
僕は脚のリスクについて思案し、眉をひそめようとした。
しかし、そもそも眉はもうすでに処理されてしまっていて、僕にひそめられるものはもう額にはなかった。
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