古物商の男
その古物商の男は、兎にも角にも古いものに首っ丈だった。
歴史ある遺跡や、何千年前から建っている建造物、大仏や石像、あるいは巨木。
絵画や昔の装飾品や、あるいは古文書や土器や巻物まで。
そんなものに目がなかった。
代わりに、新しいものを見ると蕁麻疹が出て、吐瀉が止まらないらしかった。
赤子なんかを見るといつもゲエゲエ吐いてしまうのだ。
その点、老人なんかは大好きだった。
老人を見ると、もっと古びて老いさらばえてしまえと、体を老化させる酸化した物、例えば焦げた食材なんかを味も分からぬ老人にたんまり食べさせた。
そういった古いものに触れているうちに、彼は気づいてしまったのだ。
もっとも効率よく、古いもの好きの自分を満足させる方法を。
若返る方法は、一筋縄でいかず難儀するのに、どうしてか老いさらばえてしまうのは実に簡単だ。
それが真理だ。
男は、自分を目一杯老化させ、自分を骨董品にしてしまおうとしたのだ。
そうすれば、鏡を見て過ごすだけで、古いもの好きの欲望を満たすことができる。
睡眠を削り、賞味期限切れのジャンクフードを貪り、焦げたものを食べ、陰湿で救いのないホラー映画を見まり、太陽光に体を無防備に晒して、ひっきりなしに土をかぶった。
好奇心を失わせ、夢や希望を排除しようと念仏のごとく唱えた。
人生における嫌なことを100個書き出して、それを実行しさえした。
ひとつには、動物たちの出産や産卵に立ち会い、新しいものの誕生を見て吐瀉することが挙げられていた。
男は魚のような白濁してとろんとした目を鏡に向け、骨董品になりつつある自分をぼんやり眺めていた。
しかし、古いもの好きの男の持つ鏡は、その名に恥じない古さを誇っていたのだ。
やがてほんの拍子に割れて、骨董品と化した自分を見ることもできなくなった。
ただ、その時には、男はもはや古くて価値のある骨董を追い求めるという欲望さえ、すでに失われていたのだ。
孤独死した男は、脳みそが異常に萎縮してほとんど残っていない状態で発見された。
発見したのは、男の娘と生まれて数ヶ月のつるんつるんに新しい赤子で、彼女たちは男の腐敗臭を嗅いでゲエゲエ吐き散らしたらしい。
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