尋問にかけられたウシガエル
ワインをはじめ、およそ大量摂取したところで大した実りのない酒類を飲みまくるウシガエルがある。
べろべろに酔っ払った挙句、食物と名のつくものはもちろん、加えて机の上にあるものをコップからマッチからフォークに至るまであらかた口の中に放り込んでいた。おまけに、意識もなくその辺をうろついていた小さなカエルたちをもぽんぽん口の中に放り込んだ。そうして胃の中にはディスコデモリッション時のLPレコードのようにあらゆるものが積み重ねられていた。
今や、彼の口の門衛は片手間で検問するので、審査基準は使い古されたブリーフパンツのゴムよりもゆるい、という有様なのであった。ようするに、ろくな判断なしに何でも喉を通してしまうのだ。
カエルたちは口が大きい、そのために、酔いが回るとまず口に支障が出るというわけだ。
では人間はどうか?
人間は他の生物から態度が大きいと定評がある通り、酔いは第一にその態度に支障をきたす。
一方、突然腹の中に放り込まれた小さなカエルたちは、ウシガエルの腹の中で彼が飲む酒を大量に浴びていた。その体の小ささゆえに酔いやすく、彼らはぴょこぴょこ跳ね回った。
一匹は「こんなに飛ぶように跳ね回ったのはハネムーン以来だよ」と言った。
しかし、それでもまだひっきりなしに頭上から酒が降り、浴びせかけられるので、やはり酔ったカエルがそうするように胃の中に落ちている様々なものを食べまくった。
そんな腹事情を知らぬウシガエルは、あたりのものをあらかた食い尽くした後に、はっとして、彼をウシガエルたらしめているそのモオという鳴き声を憂鬱そうに響かせた。吐きたいが、吐けないといった種類の悲しみを感じさせる声だ。
するとふたりの男が駆けてやってきて突然怒鳴るのだった。
「こら、さっさと吐きやがれ!」と。
モオ……。ウシガエルは少しばかりおおっぴらに酒を飲みすぎたか、と肩を落とした。飲んだ酒を吐いて冷静になれ、ということだと理解したのだ。
「警察だ」と男は厳粛な顔つきで言った。
ウシガエルは観念して、「酒を少々飲みすぎたようです」と言った。
するとどうだ。
「いやいや、ひどい酔漢であることを言っているわけではないんだ」
「まさにその通り」ともうひとりの男。
「自分たちが警官であるということに酔っているという点で言えば、おれたちも酔漢であるわけだからな」
「毎日二日酔いさ」
「あっはっは」
そうしてウシガエルは、吐け、と言われたのはいったいどういうことだろうかと考え、滅多矢鱈に皿やらフォークやらを口に放り込みまくったことに思い当たった。
「皿やフォークの代金のことでしたら、何とか吐き出して洗浄するか、あるいは弁償しますのでどうかご勘弁を……」
するとどうだ。警官ふたりは顔を見合わせて肩をすくめてこう言うのだ。
「それは店が悪いさ」と警官のひとり。
「そうさ、召し上がってくださいと言って出したものは、チキンもサラダもパンも皿もフォークも同じさ。そのうちの何を食べるかは経営者が決めるんじゃない、客が決めるのさ」
ウシガエルはその理論に跳ね回って喜んだ。腹に詰め込まれた小さなカエルたちも胃の中で激しく跳ね回され、ウシガエルの胃の中で密やかに吐いた。
「おっと、いやに跳ねるねえ。縄跳びでもやるかい?」
するとウシガエルは、これは舞い上がりすぎたわいと恥じた。
「失礼しました……それでは、はじめにおっしゃっていた、吐け、というのは一体なんでしょう?」
警官の話によると、警官たちはかねがね、彼がウシガエルではなく本当はウシなのではないか、と疑っているということだった。
「ほら、事実を吐くんだな。『実は僕はウシです』と言ってみなさい」
「まさか」とウシガエルは心外だといった具合に言った。
「僕はウシじゃありませんよ」
「ほらほら、乳を搾らせてくれんかね。ウシなんだろう?」
「違いますよ!」とウシガエル。
「おいおい、モオと鳴くのは断固ウシだ! はっきりモオと鳴いておきながらウシだと認めないのはたちが悪いぜ君、刑罰に値するぜ!」
「確かにモオと鳴きましたよ!」とウシガエルは白状した。
「しかし、しかしですよ。ウシは本当はびよびよと鳴くんですよ!」
「やはり詐欺罪だよ、びよびよだなんて、あまりに悪質だね。さ、その腹を裂いて反芻動物特有の4つの胃を見せてもらおうか!」
そう言うやいなや、警官たちは即座に、ナイフで悪質な詐欺犯の容疑をかけられたウシガエルの腹を裂いたのだった!
するとどうだ。開かれた腹の中では、酔いから覚めた4匹の小さなカエルたちがマッチでつけた火を囲み、自分たちの吐いたサラダやチキンを落ちていた皿に盛り、また落ちていたナイフでさらに小さく切り分け、気を新たに総力をあげての消化にあたっている最中なのだった。
警官ふたりは「これがウシの4つの胃の仕組みか!」と叫び、警官としての鋭い推理力が正しかったことを喜んだ。
そうしてウシガエルは4匹のカエルと合わせて5匹同時に誤認逮捕という屈辱に見舞われたのである。
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