月の微笑み
満月は人を惑わし、生物を惑わす。
人間の犯罪率が増加し、野生動物と自動車の交通事故が頻発し、サンゴや海亀が産卵する。
38万キロ離れた地球にいてさえ、そのような影響があるのに、月に降り立つ人間の神経が、正常でいられるはずがないのだ。
月面着陸の映像ではそんな素振りはなく、国旗を打ち立てる姿と、宇宙船内の終始にこやかな姿に大いなる疑問を抱いたものだ。
数十年後、僕は宇宙飛行士として月に降り立ち、初めて気がついた。
月が間近で微笑むその場所では、下手なことをしようものなら、僕を簡単に葬るという月の圧を感じるのだ。
見張る鋭い目を感じるのだ。僕はその日以来、地球に帰還してからも月を一度も見上げることができていない。
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