耳にタコができる
『私に、この私に清き一票をぜひとも、お願い致します!』
耳にタコができるほど聞いてきたこの演説の締めにうんざりする。
勘違いした蛸(たこ)がたまにやってくることがある。
蛸ならまだ可愛げがあるからまだいい。
「呼んだ?」なんて言いながらやってきて、呼んでないこと伝えると、ちょっと顔を赤くしてささーと帰っていく。
その点、凧が来ると本当に厄介で困る。
糸が耳に絡まるわ、バサバサはためくわ、七面倒臭いといったらありゃしない。
どこかで凧揚げしていた当人も来たくて来たわけじゃない、みたいな顔をして、僕の耳に絡まった凧糸をほどくのだが、その時間の気まずさときたら。
「向かい風が強いほど凧は高く上がります」
気まずさを解消しようと、なんか語り出す凧揚げ人。
「凧と一緒で逆風も乗り越えて高く上がっていきましょう」
これもまた耳にタコができるような話で、うんざりする……
「呼んだ?」
蛸がやってきた。
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