遅々として父乳

遅々として父乳

父は僕に「小生のことは垂乳根(たらちね)と呼ぶように」と言った。

弟には椿堂(ちんどう)、妹にはファザーと呼ばせた。

また父は相手によって一人称を変えた。

母には吾輩、弟には当方、妹に至っては朕だった。

いざ僕が父になり何となく気持ちがわかったような気がする。

父という生き物であるには、威厳と責任と温かさと信頼、時に無邪気な一面など、実に多くの顔を持たねばならないのだ。

一口に父と呼ぶにはあまりに役回りが多すぎる。

育ててくれてありがとう、垂乳根。

……また母親は、僕に「おっかあ」と呼ばせ……

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