#駅弁記念日
駅弁の魅力は、地元が一番推しているものがその小さな箱の中に詰め込まれていることらしい。
街の魅力が、口を通して体内に消化されていく。
その街で買った駅弁は、黒々とした牛の顔の箱だった。
電車に乗り込み、蓋を開けると、音楽が鳴り響く。
大したおもてなし牛だぜ、と僕は思う。
方々でこの音楽が短く聞こえてくるあたり、他の乗客も同じ弁当を買って開けたらしい。
「駅弁には街の魅力が詰まっている」ことを考慮すると、牛が有名で、さらにその牛は音楽を奏でるということなのだろう。
つまり、牛への主たる要求は、食肉ではなく、音楽を奏でることなのだ。
さらに、弁当箱の容器は牛の仮面になるらしく、顔面に取り付けることができる。
よって、この地域では牛の顔面を剥いで、仮面とする風習があるのだろう。
しかし、しかしである!
音楽の鳴る部分をのけると、その下には甘辛く炒めた牛肉と白飯が敷き詰められているのだ。
なんと……牛は、存命中は音楽を奏で、食肉にされ仮面にされる運命なのだ。
僕は涙を流しながら完食し、牛のお面をかぶって音楽を鳴らし、踊った。
周りの乗客も同じ思いらしく、電車は牛の奏でていたであろう音楽と、涙と嗚咽で満ちている。
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